最新腰痛情報
  
  腰痛の概略

   腰痛といえば殆どの人が程度の差こそあれ、生涯に一度は経験するのではないでしょうか。そしてTVや雑誌、ネットなどでもあらゆる
 腰痛情報が溢れています。
   また以下のグラフ(赤)からもお解りのように、医療技術の進歩とは裏腹に腰痛患者数は年々増加傾向にあります。これを受けて世界の
 腰痛学会等では既存の外科的な腰痛に対する検査・治療・予防的概念を大きく見直してきております。
  しかし、日本の腰痛情報は欧米や北欧のここ数年の動向からは遅れていると言えます。ここではそれらをいくつかご紹介していきます。
                                       
   
    ちなみに腰痛の原因とされているものは、現在以下のようなものが挙げられます。
                                           
   腰痛の分類 
  ・整形外科疾患
   性腰痛症腰痛症椎間板ヘルニア、変形性脊椎症、脊柱管狭窄症、腰椎分離症・腰椎分離すべり症、脊椎圧迫骨折
   筋筋膜性疼痛症候群、脊椎炎、脊髄への悪性腫瘍、
  ・内科系疾患        
   胆嚢炎、胆石症、膵炎、胃潰瘍、腎盂腎炎、慢性胃炎、腹部大動脈瘤など
  ・婦人科系疾患
   子宮内膜症、子宮筋腫、卵巣腫瘍、月経症候群、更年期障害、自律神経失調症
  ・泌尿器系疾患による
   腎臓疾患・尿管疾患(尿管結石等)・膀胱疾患・前立腺疾患
  ・精神の問題
  
  腰痛の状態
  【1】急性腰痛――発症後6週間未満の腰痛
  【2】亜急性腰痛――発症後6週間〜12週間(3カ月)未満の腰痛
  【3】慢性腰痛――発症後12週間(3カ月)以上持続している腰痛

  以上のような大まかな定義が一般的です。

  世界のガイドラインにおける腰痛とは
   近年欧米や北欧、豪州などからも腰痛のガイドラインが出ておりますが、現在一番支持されているのが2004年に14か国により
 作成されたヨーローッパガイドラインです。 
  ガイドライン1 ガイドライン2 ガイドライン3(英文ですがリンクです)
 
 このガイドラインを基準に現在世界各国のほとんどの腰痛診療ガイドラインが、下肢症状の有無にかかわらず、腰痛を次のように定義
しています。
 急性腰痛「1、重大な脊椎病変の可能性」「2、非特異的腰痛」「3、神経根症状」の3つに分類することを推奨。
 (この診断用分類は慢性腰痛にも適用されます。)
 まず「重大な脊椎病変の可能性」とはレッドフラッグと呼ばれ、悪性腫瘍、脊椎感染症、骨折、解離性大動脈瘤、強直性脊椎炎、馬尾
症候群の存在を疑わせる危険信号であり、全腰痛患者の1〜5%とされています。
そしてこれらの疑いがある時(排尿異常や肛門部周辺の麻痺などがあった際)は、早急な処置の必要性が考えられ、レントゲンやMRI等の
画像検査が必要であると推奨しています。



  次の「非特異的腰痛」というのは、腰椎部、仙骨部、臀部、大腿部の痛みを訴える場合で、楽な姿勢があり、動作によって痛みが変化
するといった特徴がある。そして全腰痛患者に占める割合は80〜90%とされています。
一般的な腰痛は殆どがこのタイプです。

  最後の「神経根症状」というのは、腰痛よりも下肢痛の方が強く、膝下からつま先まで痛みが放散したり、しびれや知覚異常・筋力低下
がみられたりする場合です。全腰痛患者に占める割合は5〜10%とされています。一般的には「変形性脊椎症」「椎間板ヘルニア」「脊椎辷
り症」「脊柱管狭窄症」などの多くはこれにあたります。

またこのふたつはグリーンライトと呼ばれ、先述の画像検査等は安易に行わないようにとの注意勧告を出しています。

  このグリーンライトに関してはいくつかの勧告が出ていますので、いくつかご紹介します。

 急性腰痛  ※ レッドフラッグがない患者に対しては、画像検査(X線、CT、MRI)を行ってはならない。
         ※ 活動性を維持するようにアドバイスし、できれば仕事を含む普段どおりの生活を続けさせる。
         ※ なかなか普段どおりの生活に戻れない患者に対して、脊椎マニピュレーション(手技)を検討する。

 慢性腰痛  ※ ある特定の原因が強く疑われない限り、単純エックス線撮影、CT、MRI、骨シンチグラフィー、
           SPECT、椎間板造影、椎間関節神経ブロックは薦めない。
         ※ 腰痛教室と短期間の脊椎マニピュレーションは、選択肢のひとつとして検討する。
         ※ 2年以上におよぶ勧告に従った保存療法に失敗するか、勧告に従った治療が行なえない場合を除き、
           手術は薦められない。
           仮に手術を行なうにしても、患者の選択は慎重でなければならない


   データに見る腰痛
 

 
              図1  腰痛患者における職業分布
            図2 腰痛患者における年齢分布 
        
  図1 山口義臣・山本三希の研究からは、必ずしも肉体的な負担が多い職種が腰痛になり易いわけではないことが解ります。

  図2 山口義臣・山本三希の研究からは、30・40代がピークであり、関節や軟骨の変性が多い年配の方が腰痛になり易いわけではない
     ことが解ります。

   図3  常者と腰痛患者における脊椎変性出現率  図4  健常者と腰痛患者における椎間板変性の発症率
     国際腰痛学会(ISSLS)ボルボ賞受賞研究
                          
  図3 アメリカのBigosらの研究からでの健康診断において、レントゲン検査による結果です。組織の変形と腰痛の関係には優位な差は
     ないことが解ります。

  図4 Boos N.et alの研究は、※ボルボ賞受賞研究の一部で、健常者を対象にしたとても有名なものです。
     これからも腰痛でない人の70%以上に、なんらかの椎間板変性があることがわかります。
     ※(国際腰痛学会でその年の最高な研究に与えられる賞)

    以上の点からも世界のガイドラインにおいては、腰痛疾患は生物学的損傷ではなく、生物・心理・社会的疼痛症候群である
  という考えが現在のスタンスに変わってきています。
  難しい言い回しですが、簡単に言うと組織の損傷が腰痛の原因となるのではなく、腰痛は患者さんの環境面全般から
 捉えていかないと改善はしない
ということを言っています。

       日本の現状と対策

  日本においてはみなさんもご存じの通り、各種機関では組織の損傷の有無確認の為の画像検査による診断が主流です。
 これらは時にレッドフラッグの見極めに必要なこともあり、必ずしも無意味ではないのは確かです。
 問題は一番大事な問診や画像では解らない機能検査が軽視されていることです。
  そして、これらのガイドラインの内容を今すぐに日本の医療の臨床の現場に取り入れることは、現実的に保険制度や体制の
 整備からも難しいと言えます。

  これらを踏まえて最も大切なのは、言われるがままになるのではなく、患者側が知識をつけて冷静に自分の行動に選択肢を持てる
 環境にしていくことだと思います。
  ご自分の腰痛がどのモデルにあたるのか、専門家に以上の情報を基によく確認されることをお勧めします。

当院の腰痛に対する考え
  巷にはあらゆる腰痛の治療法や対策グッズなどの情報が氾濫しています。そしてそのどれもがそこそこ効果を実感
 している人もいるのも現実です。場合によっては180度違うことを言っているものもあると思います。
 これは私が思うに、現状の情報はその殆どが経験則に基づいており、「これをしたら良くなった」「これで治った」などが
 理論的背景にあるからでしょう。
  上記の様な客観的な腰痛に関する検証でも明らかことは、腰痛というものが痛みという主観的な感覚異常である限り
 その感覚を感じているのは人間の脳であるのは紛れもない事実です。
  その脳への働きかけの手段が、骨盤などの姿勢的な問題・食事などの栄養面からの代謝問題・メンタルなどからの
 神経的な緊張などあらゆる刺激に脳は反応しますので、どのアプローチでも時として改善することもあり得ます。
 しかし、本当の意味での慢性腰痛からの改善を目指すのであれば、最終的に脳の機能を意識しなくては単なる対処療法
 になってしまうと考えられます。
  当院ではあらゆる生活習慣からの原因を、なぜ脳が腰痛になるようなプログラムを形成してしまったのかを客観的に
 評価していきます。よって、同じ様な腰痛に対しても骨格・運動・姿勢・食事・メンタルなどのアドバイスから目的は脳の痛みの
 プログラミングの再学習を目指していきます。